松田 昇
10年前の夏、宮野さんとあんとふるを立ち上げたとき、私はクーラーの効いた部屋で事務仕事をし、外へ出かけての支援活動はもっぱら宮野さんがする、はずだった。確かに1年目の夏は、ほぼそのとおりだった。その間に請求書等各種書類のフォーマットを作ったり、この機関誌の編集や発送をしたり、今のあんとふるの事業の形みたいなものを作っていた。そうして1、2年もすれば私の役割も終わるだろう、と思っていた。
ところが利用者さんが増えるとともに、私も外へ出る機会が多くなり、やめるにやめられなくなった。人手が足らないということもあったが、この仕事の面白さをきちんと次の人に伝えなくてはと考えるようになったのである。
まず感じたのは、移動支援で出かけると、親と出かける時とまったく違う姿を見せるということだった。気長に待つということは、親にとっては難しいことだろうなと思いながら、買い物に付き合った。自分の財布の中身を気にしながら、買い物をするようになった人もいた。
また、継続していっしょに外出していると、その人が明らかに変化していくのが分かることがあった。自販機にいつも買う飲み物が売り切れの時、はじめのうちは自販機を叩いたり揺すったりしていたのが、やがて「売り切れ」の表示を自分から指さして、その意味を理解したことを示したとき、「こうやって物事を理解していくんだな」と教えられた。
なによりいちばん嬉しいのは、お店の人や街中で出会う人に、声をかけられたり、「理解」「応援」のサインをもらったときである。ヘルパーに話しかけるのではなく、利用者さんに直接話しかけられると、大げさだが、一人の人間として受け入れてくれていると感じる。あいさつの後に「元気か!」と声をかけられれば、いつも見守ってくれているんだと感じる。地域で生きるってこんなことの積み重ねなんだと思う。
こうしたエピソードを「外出支援をしていると出会うできごと」(今は『ピックアップ』)として機関誌に掲載し、ホームページにも公開している。この連載を楽しみにしている人もいると聞いている。職員に絶えず磨いておいてほしいのは、こんなちょっとしたできごとを拾い上げる感性である。そしてみんなで共有して、さらに一歩足場を固めてほしい。これがこの10年を振り返り、もっとも強く湧き上がってくる思いである。