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あんとふる スタートにあたって

松田 昇

 

 21世紀に入り、福祉の理念はノーマライゼーションへと大きく舵を切りました。ノーマライゼーションとは、高齢者や障がい者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方です。それまで、施設で療養・管理の対象として見られていた高齢者、障がい者の人権を尊重し、改めようということですから、21世紀は人権の世紀、共生の世紀といわれる所以です。

 あんとふるを立ち上げる前、7か月ほど私は白山市の事業所でガイドヘルプをしていました。その時に出会った、車いすの方が、次のような話をしてくれました。

「車いすに乗るようになって、自分の行きたいところへ行くようになって、自分を生きているという実感がしている。『歩かないと』と言われ、何をするにも人にお願いをしなければいけなかった頃は、自分を生きていなかったような気がする。」

 つまり、管理・療養の対象とされていた頃は、自分でなかったというのです。そして自分の障がいを、自分もまわりも受け入れるようになって初めて自分らしさを取り戻したというのです。

 福祉の勉強をする中で、ノーマライゼーションとは自分らしく生きることだと教えられましたが、まさにその言葉どおりのお話でした。

 また、その事業所でこんな話も聞きました。ガイドヘルプを使い始めた頃は、どこへ行くか、何をするかは親任せ、ヘルパー任せであった人が、外出を重ねていくうちに、自分で行きたいところ、したいことを選択するようになっていくというのです。

  障がいのある人は、自己選択の機会を奪われた中で育ってきていることがよくあります。家族や周りの人たちは、決してそういうつもりではないでしょうが、結果としてそうなっていることがよくあります。

 教員をしていた頃、不登校の生徒とつき合っていて、親の送り迎えではなく、自分で通学をするようになって変わっていった生徒がいました。一人で時間を使うことを覚え、自分を取り戻していったのです。自己選択は、自分らしく生きることに通じるのです。

 あんとふるは、そうした理念を実現する事業所でありたいと思っています。障がいのある人が、地域で生き生きと、自分らしく生活するお手伝いをしたい。そうすることが、共生の街づくりにつながるのだという視点は、決して外さないように歩んでいきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。